2019年1月25日発行
巻頭言
地域共生社会における高等教育の使命
昨年11 月26 日,中央教育審議会は「2040 年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」を公表した。現在の教育制度の編成に準拠すれば,2040 年とは今年生まれた子どもが大学を卒業する年である。答申では,2040 年の展望と高等教育の目指すべき姿として,「必要とされる人材像と高等教育の目指すべき姿」および「高等教育と社会の関係」に言及されている。
殊に,前者については,OECD によるキー・コンピテンシーや累次の中教審答申,(一社)国立大学協会による「高等教育における国立大学の将来像(最終まとめ)」(2018 年1 月26 日)や(一社)日本私立大学連盟による「未来を先導する私立大学の将来像」(2018 年4 月)における人材像等をもとに,“AI には果たせない真に人間が果たすべき役割を十分に考え,実行できる人材”が希求されている。
とりわけ,社会福祉教育の立場から言えば,現在OECD において改定作業中の,エージェンシーを中核とする“変革を起こすコンピテンシー”に着目したい。この点に着目する所以は,後者の社会における教育の貢献とも関連するからである。
社会福祉学の中でも哲学や倫理における理論的貢献が顕著なアマルティア・センは,「エージェンシー」について,「ある人のエージェンシーの達成・実現とは,その人のwell-being に係るものであろうとなかろうと,その人の目標や価値を道理に適って追及して実現することである」1)と説明する。また,エージェンシーを発揮する主体について,行動し変化を起こすものとしての「能動者(エージェント)」2)と規定している。
翻って,Vocation(召命→天職)への応答(約束)がProfessionであり,その形容詞形がProfessionalである。プロフェッショナルとは,何に応答し行動するのであろうか。神学的には神の声であり,その声に応答する古典的な専門職として宗教家や医師,法律家が成立した。これらの職業に共通することは,人々の苦悩に応えることであった。この構図は,先のエージェントと軌を一にするものであると捉えるのは私だけであろうか。応答すべき声,あるいはレヴィナスのいう「顔(visage)」3)の普遍的展開は,目の前の人々や我が内なる道徳律4)に真摯に向き合うことから始めなければならない。
さて,近年の政策理念の一つに地域共生社会がある。その実現にあたっては,専門職のみならず,市民が一定の役割を担うことが期待される。まさに,エージェントの養成こそが喫緊の課題である。そのためには,学修者の感性を磨かなければならない。先の中教審答申では,教育研究体制における多様性と柔軟性の確保が指摘されていた。我われも,いま一度この観点から日々の営為を見直してみることが,タコツボ化の弊害5)を脱する方途の一つとなるのでなはないだろうか。
目次
- 巻頭言
- 日本社会福祉教育学会 第8回春季研究集会報告
- 国際動向報告
- 日本社会福祉教育学会 第14回大会報告
- 総会報告 ~日本社会福祉教育学会 2017年度総会~
- 学会編集委員会からのお知らせ
- 日本社会福祉教育学会 第9回春季研究集会 開催のお知らせ
- 訃報