日本社会福祉教育学会 NEWS LETTER No.29

2017年6月25日発行

巻頭言

『社会福祉専門職養成と組織開発 』

2年ほど前から、「社会福祉組織に変化を起こす『組織開発』を用いたソーシャルワークのモデル化の研究」という題目で科研の共同研究を行っています。組織開発(Organizational Development=OD、以下OD)とは、1950年代にアメリカで社会心理学を基礎に開発された方法で、日本には1970年代に紹介されました。日本における組織開発の代表的な研究者であり、実践者である南山大学の中村和彦氏によれば、OD とは「組織の中の人間関係やコミュニケーションや組織文化・風土など組織のプロセスを取り扱い、組織を構成する人々がそれに気づき、働きかけ、組織の効果性や健全性を高めることを目的に実践する理論と手法の集合体」であると定義されています。

ソーシャルワーカーを始めとする福祉専門職は、個人や家族の生活問題、また地域や社会の課題に対してどのように働きかけるかということを中心に仕事をしています。もちろんそれは職業上中心となる働きではあるのですが、そうした働きが効果的で効率的なもので、何よりも仕事に対するやり甲斐、働きがいを感じて、生き生きと働くことができているかということは、福祉専門職が所属する組織の在り方に左右される可能性が高いということが言えます。

これは福祉の仕事に限ったことではありませんが、職場で個人がどんなに頑張ったとしても一人の力では限界があります。そこでチームとして業務を行っていくことになるわけですが、チームのあり方、職場におけるリーダーシップのあり方、職員間のコミュニケーションのあり方といったものが結果として援助の質を左右するということになるでしょう。しかしながら、福祉領域では、前述した「対利用者」のベクトルについては、熱心に研修なども行われていますが、「対組織」のベクトルで対応するということは必ずしも充分ではなかったのではないでしょうか。

今回の共同研究は、ある実習先の指導者であるワーカーが、職位や経験年数、男女差などによって援助観は異なっているとしても、同じ組織で仕事をする上で、自分達が何を目指して仕事をしているのか、どのような施設にしたいのかを全員で考え共有したいという希望が出されたことから始まりました。この施設では、中間管理職以上の職員に対して研究者がAI(Appreciative Inquiry)というOD の手法を用いて組織の在り方の共有化を図り、更に彼(女)らのチームで働く職員や施設のステークホルダーに対して彼(女)らが同じような手法を使って共有化を行うという実践、つまり、組織と組織に属する人々の両方に双方向の変化をもたらすということが行われました。

このようなOD の様々な手法は、組織論の研究者によって研究され、また企業や自治体、コンサルタント会社などで実践が行われているのですが、より質の高いサービスを提供するための人材育成が必要な社会福祉領域におけるOD は今後、必要なものとなっていくと思われます。また、OD 実践の根底には、①人間尊重の価値観、②民主的な価値観、③組織の当事者の主体性、④社会的・エコロジカルなシステム志向というものがあり、OD 実践者は change agent(社会や組織の変革を促す推進体)となっていくと言われます。 OD の手法は基本的にヒューマンプロセスに働きかけるものであり、こうした価値観や目指すところはソーシャルワーク教育がねらいとするところとも親和性が高いものであるため、現任教育を始め社会福祉専門教育の中に比較的無理なく取り入れていくことができると考えられます。

社会福祉専門教育の中で、こうしたOD の価値観や様々な手法をどのように活用することができるか、特に演習教育の中で、組織の一員として組織を理解し、そこに効果的に働きかけることができる考え方とスキルをどのように習得してもらうことができるか、実践力の高い社会福祉専門職の養成に向けた課題の一側面として取り組んでいきたいと思います。

理事 川島 惠美(関西学院大学)

目次

  • 巻頭言
  • 理事会報告
  • 第7回春季研究集会報告
  • 会員の声~私の福祉教育~
  • この一冊
  • 学会探報⑰
  • 連載「授業Tips」①
  • 未来教育①
  • お知らせ
  • 編集後記

PDFダウンロード

日本社会福祉教育学会 NEWS LETTER No.29[0.78MB]

お問い合わせ 入会のご案内

日本社会福祉教育学会事務局

東北公益文科大学 小関研究室
〒998-8580 山形県酒田市飯森山3-5-1
TEL:0234-41-1288
FAX:0234-41-1192

ページトップへ