2016年4月25日発行
巻頭言
『奇縁により社会福祉専門職養成と支援に携わって』
私ごとで恐縮ですが、あと、本務校の定年までに10 年も無くなり、何ができるだろうか、何をする必要があるかと、自問することがあります。
というのも、東洋大学名誉教授の恩師田村健二先生には、「物理学の落ちこぼれでカウンセリングのオタク」だった私を大学院生として拾って頂きました。故田村先生は、児童福祉の専門で結婚カウンセリングの第一人者のお一人でありながら、私たち院生は高齢者福祉施設での事例研究に参加し、様々なものを学ぶことができました。私はその中で「逐語記録」を活用した教育方法に取り組んできました。同時に、対人援助職養成のための構成的グループエンカウンター方式(以下、SGE 方式)の教育プログラムの開発を試みてきました。SGE 方式とは、東京理科大学学生時代の恩師である國分康孝先生(日本教育カウンセラー協会会長)が開発されたものです。私はカウンセリングとソーシャル・ワークとの縁の中で生きているように思います。というのも、國分先生の奥様の指導教授は、関西学院大学教授竹内愛二先生で、そのこともあって、國分先生は同大学の社会福祉コース助手となり、アメリカに留学され、博士の取得をされ折衷的カウンセリングを提唱されています。國分康孝著の『カウンセリング心理学入門』(PHP 研究所,1998 年)には,「ソーシャル・ワーク,サイコセラピー・カウンセリングの三者の異同は竹内愛二著『専門社会事業研究』(弘文堂,1959年)のテーマの一つであった」とあります。
こうした奇縁のなかで、私はソーシャル・ワークにカウンセリング理論と技法を融合させながら、社会福祉士と精神保健福祉士の養成課程で、演習や実習指導の中に、SGE 方式の教育プログラムの開発を工夫してきた。社会福祉士は 10 年、精神保健福祉士は5年のほど前に資格取得しているが、こんな「はぐれ雲的な私」でも、まがりなりに大学教員の道を続けられたのは「福祉の持つ包容力と専門性への胎動期」だったからだと思います。
さて、社会福祉士や精神保健福祉士の専門職養成制度も、「認定社会福祉士」など認定制度も充実してきたなかで、「成人期」から「壮年期」に向けて、どのような専門職としての養成を行うか、大きな岐路にあるのではないでしょうか。その中で気になるのは、社会福祉士の受験資格にあげられる「相談援助業務の実務経験として認められる職種」です。その職種の種類と数は多く、社会福祉士の業務として位置づけられています。さらに、少子超高齢・人口減少型社会のなかで、人材不足と外国人労働者の受け入れ問題、観光客などによる多文化意識が高まる中で、新たなグローバルな人材養成も必要とされるようになってきました。周知のように、スクールソーシャルワーカーなどの認定制度も始まり、社会福祉士の守備範囲は拡大し続けています。このような多種多様な職種の業務を内包している「社会福祉士」は、その専門職教育にとって大きな問題ではないかと思っています。本来ならば、ここのところを「巻頭言」としてまとめたかったのですが、上述したような具合で、私にとって課題です。
最後に、こんな私にとってありがたいのは、本学会理事の小山隆先生が主催される共同研究会です。なかなか参加できないのですが、多種多様な社会福祉は専門職として自我同一性の拡散という危機を感じる中で、話し合える場を提供して頂いているという思いがあります。初老の戯言におつきあい頂きありがとうございました。
追記:本稿の執筆中に、震度7の「熊本地震(熊本市と益城町周辺)」が4月14 日夜に起こった。その後、余震が続いています。本学会の会員のみなさまにも被災者がおられるのではないでしょうか。心よりお見舞い申し上げます。
理事 益満 孝一(筑紫女学園大学)
目次
- 巻頭言
- 春の研究集会報告
- 理事会報告
- トピックス
- 会員の声~私の福祉教育~
- この一冊
- 学会探訪⑯
- お知らせ
- 編集後記
PDFダウンロード
日本社会福祉教育学会 NEWS LETTER No.27[1.05MB]