2014年4月22日発行
巻頭言
「失われた 10 年」を前に、社会福祉教育のパラダイムをどこに求めるのか
2014 年度が「・・・・」のうちに訪れました。皆さんは「 」にどのような言葉を組み込まれるのでしょうか。私はいろいろ思案した結果、・・・のままにしました。
さて、2006 年 11 月に創設された本学会は時機に 10 年を迎えます。私の研究者生活とほぼ重なります。「失われた 10 年」などと他者から揶揄されないため、そろそろ学会の 10 年を総括する作業に入るべきかもしれません。そう思い、研究者としての出発点を振り返ってみることにしました。私の研究生活は恩師:高橋重宏との出会いからでしたので、恩師が探求したパラダイムを再考してみたいという思いに至りました。しかし、そう容易く語り尽くせるものではありませんので、1 冊の著書から学びの原点を思い返してみることにしました。
高橋は『ウェルフェアからウェルビーイングへ』川島書店(1994)において、冒頭「(わが国においては)実は、男性も、女性も、子どもも人権はともに尊重されて」おらず、「未だ個人を尊重するデモクラシーの文化は育っていない」と述べられています。同年の「国際家族年」のスローガン「家族の中でのデモクラシー」を引用し、高橋は子ども、母親、父親のウェルビーイング(権利の尊重・自己実現)をどう調和させ実現させるのかを探求するべきだとされています。その視点は、カナダのソーシャルワークの探求と結びつき、高橋はカナダを理解するキーワードとして「人権」「マルチカルチャリズム」「地域主義」を重視されています。そのような高橋から私が託されたキーワードは「コミュニタリアニズム」であり、とても早い時期にこの思想と向き合わざるを得ませんでした。いまだにこれらの概念やイズムを十分に咀嚼できておらず、その点からすると私の中で「失われた 10 年」が堆積しているのかもしれません。
上記の著書の中で高橋は、文部省や東京都等の見解を引用し、社会福祉とウェルビーイングの関係を次のように整理されています。
ウェルビーイング(well-being)という概念は、従来の救貧的なウェルフェア(welfare=福祉)から、「より積極的に人権を尊重し、自己実現を保障する」という意味である。子どもにとっては、単に保護の対象ではなく一個の人間として、権利主体として認められることである。
(中略)
その転換は貧困対策、救貧対策としての歴史を有する児童福祉から権利保障、自己実現の保障としての児童福祉への道であり、権利保障のプログラムを拡大し、児童と親の豊かな人生を保障するために新たなウェルビーイング(人権保障、自己実現の支援)という概念に基づいたソーシャルサービス・プログラムの整備・拡充への道でもある。
同著が著されてから 20 年が経過しています。学的蓄積と概念の精緻化が私たちの中でどれだけ深化したのでしょうか。伝統的な福祉と現在の社会福祉、またソーシャルワークとは何か、を見つめなおし、かつ、教育とは何か、教育実践とは何か、教育について研究するとはどういうことなのか、についても見つめていかなければならないのかもしれません。
今年も私は「社会・福祉・教育・評価」とは何か、どうあるべきか、どう進めるのかを考えていくことになりそうです。「失われた 10 年」と後進から揶揄される前に。取り組むのは「今、でしょ!」と天の声が聞こえてきそうです。
理事 宮嶋 淳(中部学院大学)
目次
- 巻頭言
- 第4回春季研究集会開催される春季研究集会参加者の声
- 2013年度第4回理事会報告
- 2013年度第5回理事会報告
- ル―ブリックの試案
- 学会探訪⑩~日本社会教育学会~
- 会員の声 ~私の福祉教育~
- 『日本社会福祉教育学会誌』への投稿募集
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日本社会福祉教育学会 NEWS LETTER No.21[1.85MB]