日本社会福祉教育学会 NEWS LETTER No.15

2012年10月30日発行

巻頭言

社会福祉教育の実感

私は、社協での現場経験を経たのち、1999 年から実習講師として福祉系大学の教員生活をスタートしたが、そこで直面したのが社会福祉士養成における講義・演習内容と実習内容の乖離・矛盾の問題だった。

よくいわれるソーシャルワークとケアワークの乖離問題である。以来、様々なプロジェクトに関わらせていただき、実習のあり方を中心とした養成教育問題は、半ばライフワークのようになってもいる。

そんな教員生活の中で、何となくこの頃感じることは、実際の福祉現場は「人間性」や「経験性」や「実務性」を大切にしているのに、社会福祉士養成教育はそこに巧く乗れていないのかな・・・・ということである。この噛み合わなさが学生募集(不人気さ)にも影響しているかもしれないなとも感じている。学生の人間力を磨きあげ、魅力ある現場人なりソーシャルワーカーとして自信をもって送り出せているのだろうか。有資格者としてスタートする時点で現場が要求する最低限の経験を持たせて送り出せているのだろうか。実務に役立つ具体的な知識を持たせて送り出せているのだろうか、と自問する今日この頃だ。

知識一つ取り上げても、様々な福祉制度利用や相談の窓口、家族・生活像と生活保護や年金給付額、障害等級の中身や障害年金額、要介護度と利用上限やサービス内容、様々なアセスメントシートの存在や特徴・・・実務者には当然の常識であることが養成教育の中できちんと伝えられていない。就中、福祉系教員自身がそもそも知らない・・・ということはないだろうか。だから、我々も送り出す学生に「現場に出てからの経験が大事」と逃げるしかないのではないか・・・と考えたりもする。

かくいう私自身、父親が難病を患って初めて公費助成制度を調べ、手続を行ったし、介護保険制度の利用手続やケアマネとの遣り取りを行った。父親の他界以降、独居となった母親が幾らの年金と幾らの貯蓄で老後生活を送ることになるのかも知った。それまで、人に福祉を教えていながら、身内の老後生活への想像力さえ欠如していたのだ。「福祉の専門家」という幻想を抱いているためか、友人から「最近、親父の奇行・暴言が増えたのだが何処に相談に行けば良い?」、近隣から「事故で右手の薬指と小指を失ったのだが障害年金は幾らくらい貰える?何処に行けば良い?」などといった照会・相談が屡々舞い込む。

実は、私は、相談を受けた時点でこうした具体的・実務的な知識は殆ど持っておらず、調べてから教えるしかない訳である。そんな経験をする度に「、自分は一体何を勉強していたんだろう」と情けない思いになる。わかったような、わからないようなことを、そのままを自分が教えているのだろうなと思う。

資格制度導入以降、社会福祉学教育が、国家試験受験を目的とした記問之学になってしまい、制度的な知識や観念的なものに養成教育が傾倒していると思うが、その内容が現場実践に求められるものと今一つ噛み合っていないような隔靴掻痒感を感じているのは私だけなのだろうか「。この教科書どおりに教えていて良いのだろうか、自分の生活とは切り離された、特別不幸な身の上の人々に手をさしのべる福祉を教えてしまっているのではないか・・・」と不安になる。教科書に書いてある通りに、価値論や制度論から福祉を説き起こしていいの?現実・実態からじゃないの?という疑問に屡々襲われる。学問的出発点を見誤っているような不安をいつも抱えている。

話はやや逸れるが、前職の大学で、中山間地や離島の社協に協力いただき、限界集落の空き家に学生を泊まらせ、自炊生活を送りながらフィールドワークを行い、地域アセスメントや個人アセスメントに取り組むという「地域総合型実習」なるものを行っていた。二層式洗濯機の使い方がわからない、集落住民からいただいた魚の調理法がわからない、掃除ができない・・・という学生たちが、試行錯誤を繰り返しながら生活感覚を身につけていく過程がとても楽しかった。

人のニーズを感得するためには人間の生活に対するイマジネーションがそもそも必要だと思う。そのイマジネーション力を高めるためには、自分自身に生活感覚なり生活者実感が必要なのだろうとも思う。そうした力を身につけてもらえるような教育をしたいと常々考えている。

卒業時に「結局のところ何を学んで、どんな力が付いたのかわからない・・・・」と学生から言われないような、実体のある、地に足の付いた教育をしたいと願い考え努力している。

理事 川上 富雄(駒澤大学)

目次

  • 巻頭言~社会福祉教育の実感
  • 第8回大会開催される
  • 社会福祉士の教育課程の検討を開始
  • 2012年度第2回理事会報告
  • 2012年度総会報告
  • 学会探訪④ ~日本福祉のまちづくり学会~
  • 会員の声~私の福祉教育
  • 学会誌投稿募集・編集後記

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