「専門教育」とは「〇〇〇」である!
前号より始まった「専門教育とは、「〇〇〇」である!」は、実践者・研究者、各々の立場で「専門教育」について考えるきっかけとなれば…という思いより、スタートしました。
若手研究の方や現場実践の方を中心に、その人自身が考える「専門教育」とは何であるのかを「〇〇〇」という一言で表現してもらい、その理由(何を以て専門教育としているのかなど)などを教えていただく内容です。
第2回目は、辻村伸代会員(鹿児島県高次脳障害者支援センター 支援員)、山下匡将会員(名古屋学院大学)のお二方に熱い想いをご執筆いただけました!
「専門教育とは、「社会の一つの切り口」である!」
辻村伸代(鹿児島県高次脳機能障害者支援センター)
私は、長年、専門高校で介護や看護の専門教科を教えてきました。卒業時には国家試験を受け、就職先を選択し、生徒たちがそれぞれ専門職への道を歩み始める後ろ姿を見送ってきました。入学から卒業までの3年間の間には、テーマである専門教育について語ることがあったと記憶しています。
実は、在学途中で興味が薄れたり、卒業時、他の進路を選んだことを申し訳なさそうに語る生徒と話をすることもありました。最初、興味やできる人(素敵な職業人)になりたいという憧れでこの分野を選んだが、別の分野に興味が移った、自分に合っていない、卒業まで待てない、という理由が多かったように思います。内心、寂しい限りでありましたが、こちらも歯を食いしばって、ポジティブな捉え方ができるように言葉を贈りました。「物事を捉える概念は、もう身についている。いつか、しみじみとこれまでの時間を思い出すことがあると思う、どこでも通用する学びをしてきたから、これまでの時間は無駄ではなかったと期待したい。伸び伸びと胸を張って次の世界で頑張ってください。」
世の中の専門は、一見、細かく分かれているように見えるが,学べば学ぶほど、共通することばかりで、実際はどの業界でもコミュニケーションや、他者と協働することによって初めて,何かを成すことができるという共通の部分があるのではないかと思っています。専門職の役割や求める方向性をみても,人々の福祉に貢献するという究極の目的から逸れることはない。たとえ土木建築の分野であっても、陶芸の道であっても、人々の福祉や幸せを考えながら、結局は同じ方向をみて経験や知識を深めていくことが専門教育であると思います。
現在、私は“現場の人間”をしています。精神保健福祉センター内の高次脳機能障害者支援センターの支援員として、時々、心理や精神保健福祉を学ぶ大学生に向けて、話をすることがあります。
それぞれ学びの途中ですが、目指す職に就いても一人ではうまくできない。同じ職種で固まって仲良くしていても同様であり、できれば自分とは違う立場の仲間とつながることができれば、点が線になり面になって、よい仕事ができることを語りかけている。実際、自分の電話の先は、自分と異なる立場や職種の人であることが多い。その人たちとつながって、同じ方向を向いて仕事をしている。現場で出会う他の専門職は、私に専門からみた見立て、つまり異なる切り口から見た考えを求めてくる。その期待に応えるために必要なことは、懸命に自分の専門を学び、自分の専門職の立場で語れるようになることが大切になるのではないかと思います。
最後に大切なことは、専門を深めるにあたって当事者から学ぶことだと思います。目の前の当事者や事象が今のデータであり、そこから何を掴み取るか、その力が問われるのではないでしょうか。生き様の中にある温かみや人生の厳しさを、当事者やその家族から学びとることによって、専門性は深められていくと思う。そもそもチームの中に当事者や家族も含まれる訳ですから、当事者から学ぶ姿勢の大切さを伝える教育が必須であることは間違いないと思います。
さて、話を元に戻すと、「専門教育とは」山に切り込んでいくようなものであり、専門毎の違いは、どこから入ったかの違いであるが、どの専門教育の先にも、頂上には福祉や人々の幸せがあり、専門を極めた頂上から見える景色は、どの道から上がってこようと、同じ景色なのではないかと思っています。山とは社会であり、「専門教育は社会の一つの切り口である」と。
今回、声をかけていただいたことは、自分の考えをまとめるよい機会となりました。このような機会を与えていただいたことに感謝します。
「専門教育とは、「非一般(一般に非ず)」である!」
山下匡将(名古屋学院大学)
「専門教育とは」というお題に回答する前に、私のことを少しお話しておきたい。私が社会福祉教育に携わることになったのは、2007年に名古屋学院大学(以下、本学)人間健康学部に社会福祉士養成にかかる実習助手として着任したことが始まりである。しかし、本学は僅か4年で社会福祉士養成課程を閉じることを決定し、私はその後、スポーツ健康学部、経済学部を経て、現在は現代社会学部に所属している。以下の米本秀仁先生による「社会福祉教育の概念整理」に基づくと、私は「③社会福祉学教育」と「④社会福祉士養成教育」の担当者から、「①福祉教育」と「②社会福祉教育」の担当者へとシフトしていったと言える。
<米本秀仁(2013)「社会福祉教育の概念整理」>
〔日本社会福祉教育学会第2回春季研究集会(2012.3.5)当日配布資料より一部抜粋〕
- 福祉教育(福祉マインド教育?)
- 社会福祉教育(市民としての社会福祉教養・素養)
- 社会福祉学教育(専門領域の学を学んだ者としての素養)
- 社会福祉士養成教育(国家資格に特化した受験準備教育)
- 社会福祉専門職養成教育(国家資格とは別次元での独自の専門職養成)
※「?」は原文ママ
米本先生は、本学会第2回春季研究集会の基調講演において、「日本福祉教育・ボランティア学習学会があるのに、なぜ社会福祉教育学会を作らなければいけないのか」という本学会設立時の議論を回想し、上記の③~⑤、「つまり学教育とか専門職養成とかこの辺りを射程に入れるのであって、福祉教育とか社会福祉教育とかの広範なところは範囲にしないという言い方で住み分けをした。」と述べられている(同:p.8)。したがって、現在私は、現代社会学部の専門教育として①および②辺りの社会福祉教育に携わっているが、本学会が範囲とするところの社会福祉教育からはずいぶんと遠ざかっている状況である。
さて、本題「専門教育とは」である。実は最近そのことについて考えさせられる出来事があった。本学会第19回大会の学会シンポジウム「新カリキュラムでのソーシャルワーカー養成教育における実習・演習の取り組み」において、シンポジストの一人が、「近年では、総務省の地域力創造アドバイザーや経済産業省の共創型ローカルデザイナーなど、地域課題に対応する様々な活動が推進されている。」それらの活動は「展開方法によっては地域を基盤としたソーシャルワークの『広範なニーズへの対応』や『個と地域の一体的支援』、『ソーシャルアクション』の機能を発揮することも期待できる。」そこで「学生を居住地や帰省地以外の地域に住まわせ、その地域の住民とともに課題抽出と解決法の考案、介入を構想した(ソーシャルワーク)実習を展開する。」(※括弧内、筆者加筆)という発言をされた。
岡村重夫先生は『地域福祉論』のなかで、「このような一般的なコミュニティづくりの協同作業に対して、常に積極的に参加する用意をもつべきであって、決して無関心であってはならない。」(岡村2009:p.68)と述べており当該発言の趣旨や実習の意図を否定するものではない。とはいえ、岡村先生は続けて「しかし地域組織化活動は、このような一般的地域組織化活動だけでは不十分である。というのは地域福祉にとって、もっと直接的な関連をもつようなコミュニティづくりが必要だからである。」(同上)とし、最後は「このような『福祉コミュニティづくり』をもって、福祉組織化活動の目標と規定し、そのことによって、一般的な『コミュニティづくり』としての一般的地域組織化活動と区別すべきことを指摘しておきたい。」(同:p.71)と締めくくっている。つまり、社会福祉士が「ソーシャルワーク専門職」であり、社会福祉士養成課程は「ソーシャルワークの専門職としての役割を担って行ける実践能力を有する社会福祉士を養成する必要がある」(厚生労働省2019)とするのであれば、「福祉組織化活動」こそ(ソーシャルワーク)実習に取り入れるべき内容である。
上記の点について、当該シンポジウムで質問したが、シンポジストからは、岡村先生の時代と現在は異なり、「岡村先生のいう一般的地域組織化活動は、現在は福祉組織化活動である」という趣旨の回答があった。そうであるとすれば、私は冒頭の自己紹介を訂正しなければならない。なぜなら、現在私は、名古屋市の市営住宅の空き部屋を活用し、「みんなの縁側mochiyori(もちより)」という一般的地域組織化活動を学生たちに指導しているからである(※活動の概要は一般社団法人キャリアビジョン協会HPを参照「https://career-vision.or.jp/20241119-2/」)。果たしてそれでよいのだろうか。
同じく本学会第19回大会の基調講演において、空閑浩人先生は、「国家施策を追随する(?)ソーシャルワークやソーシャルワーカー養成ではなく、ソーシャルワークの側から、求められるソーシャルワーク実践、ソーシャルワーカー像やカリキュラム、演習や実習プログラムのあり方を、創造的、開発的に問うこと」(※「?」は原文ママ)と指摘されている。ソーシャルワークが矮小化されてしまわぬよう、本学会が掲げる「専門教育」とは、私が取り組んでいる教育を「一般」と位置付けるものであってもらいたい。
文献等
- 厚生労働省 社会援護局福祉基盤課 福祉人材確保対策室(2019)「社会福祉士養成課程における教育内容等の見直しについて」
- 岡村重夫(2009)『地域福祉論』光生館.
- 米本秀仁(2013)「社会福祉教育研究の回顧と展望-福祉系学会における教育研究と専門職養成教育の課題」『日本社会福祉教育学会誌』(7),pp.5-25.