日本社会福祉教育学会 NEWS LETTER No.23

2014年11月15日発行

巻頭言

社会福祉教育研究の射程と本学会の意義

この度、初代会長の故・宮田和明先生、第二代会長の川廷宗之先生の後を受け、日本社会福祉教育学会の第三代会長を拝命した北海道医療大学の志水幸と申します。浅学菲才ではございますが、本学会のさらなる発展のため、盤石なる礎を築くべく尽力いたしますので、会員の皆様の絶大なるご協力を賜れば幸いです。

翻って、日本社会福祉教育学会は、2005 年 10 月 31 日(文京学院大学)に設立された比較的若い学会である。学会創設のための発起人による設立趣旨には、「社会福祉やソーシャルワークの『危機』の時代において、実践・理論・教育・研究・教育の改革・再編が求められています。社会福祉の政策と実践を短期・長期に展望するためには実践や研究への有能な人材を育て上げなければなりません。 -中略- 社会福祉の危機を克服すべく有為な人材を組織的に養成するためにも、社会福祉教育の責任の重さを感じ、社会福祉領域における教育学会の設立を提案する」と記されている。爾来十年、社会福祉やソーシャルワークの危機は去ったのだろうか。いや増して、“混迷の度合いを深めている”というのが衆目の一致した見解であるといっても過言ではない。かつて、一番ケ瀬康子(1971)は『現代社会福祉論』(時潮社)の中で、わが国における「社会福祉学への志向は、当初社会事業に従事する従事者養成の教育機関からはじまった(傍点著者)」(7 頁)と指摘されている。つまりは、社会福祉に係る学的探求の原点に教育があったということである。その発祥の歴史に鑑み、混迷の時代を切り拓く上で、教育の果たすべき使命は大であるといわなければならない。

さて、本学会第 2 回総会(同志社大学)における学会規約の制定に係る案件の中で、名称にある「社会福祉教育」とは何を意味するのかを巡る議論があったことを記憶している。そこで、本学会の研究対象は、「高等教育における社会福祉専門教育」であるとの認識で一応の合意をみた。しかし、ここには二つのアポリアがある。一つは高等教育の範囲の難問である。一口に高等教育といっても、専門学校教育、短期大学教育、大学教育および大学院教育と、目的の異なる多くの教育機関によって展開されているものである。いま一つは、何をもって専門教育とするのかの難問である。一般に、社会福祉専門教育は、専門職養成を前提とする教育と、必ずしも専門職養成を前提としない教育に大別される。また、専門職養成を前提とする教育の中でも、資格取得に着目した場合には、社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士、保育士の多様な教育課程が存在する。さらに、〔一社〕日本社会福祉教育学校連盟におけるコア・カリキュラムの議論は、資格取得を前提とする教育の範囲を凌駕する視野をもって専門職養成について語られている。高等教育機関における社会福祉専門教育の実体は、ことほど左様に複雑なものである。他方、これらに係る議論の場という問題もある。わが国における教育研究は、〔一社〕日本社会福祉学会をはじめ関連学会の中でも展開されてきた。また、特定の資格養成に特化した教育機関による団体や、わが国の社会福祉教育のナショナル・センターとしての学校連盟の場における議論がある。誤解を恐れずに言えば、このような状況の中で本学会の立ち位置を問うことは、ある意味で愚問であるともいえよう。

本来、学問や研究のための組織である学会は、制度的な軛や権力から自由であらねばならず、さらに言えば社会とのある種の緊張関係が必要とされる。そのことが学問の独立性・自律性を担保する前提でもある。本学会の存在意義は、その地平から先述の複雑な状況を俯瞰し、ある時には相互に独立した事象を繋ぎ、ある時には整序しつつ社会福祉教育の発展に寄与することである。とりわけ、本学会会則第 3 条に規定される、社会福祉教育実践・研究の水準の向上に資するべく、教育法・教授法等の開発が本学会の生命線となる。

かつて、ティトマス(1968=1971)は、『COMMITMENT TO WELFARE(三浦文夫監訳:社会福祉と社会保障‐新しい福祉をめざして)』(東京大学出版会)の中で、「情報過多、情報の集積、実証的研究、検証されていない(またおそらく検証できない)仮説といったもののなかで、いかにして教え、何を選んで教えるかという問題が、より複雑なものになっているのである。要するに現在、私たちは情報を教えることに浮身をやつしたり、将来の見通しと原理を結合するという想像力を刺激する点では、教え方が足りないということになっているのかもしれない(括弧内著者、傍点引用者)」(11 頁)と自戒している。まさに、今日でも色褪せることのない教育研究への示唆である。最後に、ティトマスが同書で引用したホワイトヘッド(1929=1986)の『教育の目的』(松籟社)における箴言を引用し、結びの言葉としたい。文中の「大学」を「教育」に置換することにより、より味わい深いものとなる。

「この世界の悲劇は、想像力豊かな人々が経験に乏しく、逆に経験豊かな人々には想像力が乏しいということである。愚者は知識をもたないで空想にふける。
学を衒う者は想像力をもたずに知識にたよる。
大学の使命は、この想像力と経験を融合させることにあるのである」

会長 志水幸(北海道医療大学)

目次

  • 巻頭言
  • 第10回鹿児島大会
  • 2014年度総会報告
  • 新理事の声~自己紹介と抱負
  • 春の研究集会
  • 学会探訪⑫日本介護福祉教育学会
  • 学会課題研究関連情報・「2014年度高等教育開発フォーラム」報告
  • お知らせ他
  • 編集後記

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日本社会福祉教育学会 NEWS LETTER No.23[1.17MB]

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