2019年7月23日発行
巻頭言
社会変革を自分事に
社会問題はどうすれば解決できるのかを学生に考えてもらいたい,社会問題を解決するために必要な力を身に付けたいと学生に思ってもらいたい。そのような想いから授業の中でさまざまな社会問題を取り上げるのですが,意図しているように授業を展開することはなかなか難しいです。
その背景には,社会問題を解決する,換言すると社会を変革することは難しいことであり,学生自身が社会変革に貢献できそうだという感覚を持ちにくいということがあるのではないかと思っています。
社会変革を他人事ではなく自分事として学生にとらえてもらうためには,社会は変革しうるものだとの認識を学生に持ってもらうことが必要でしょう。そのような認識を学生に持ってもらうためには,「縦の理解」と「横の理解」が重要なのではないかと考えています。
「縦の理解」とは歴史的な理解や歴史的な視点を持つことであり,「横の理解」とは国際的な理解や国際的な視点を持つことです。つまり,過去にどのような社会問題があり,その問題がどのように解決されてきたのか,日本に存在する社会問題は海外ではどのような状況にあるのか,日本と海外とで状況に違いがあるのであればそれはなぜなのか,といったことを学ぶことをとおして,社会は変革しうるものだとの認識を学生に持ってもらいやすくなるのだと考えています。
私が担当する授業の中で『マンデラの名もなき看守』という映画を視聴する機会を作っています。この映画は,アパルトヘイトの廃止前後の南アフリカが舞台となっていて,20 年近く前まで人種差別が公然と行われていたこと,その社会問題がなぜ続いていたのか,そして,どのように解決されていったのかを知ることができ,社会は変革しうるものだとの認識を学生に持たせてくれます。しかも,この映画の主人公は,ネルソン・マンデラ元大統領ではなく,その元看守であるため,一部のエリートやカリスマ的指導者だけが社会を変革させるのではないことを伝えてくれるので,学生に「社会変革」を自分事としてとらえてもらう大きなきっかけになると思います。
世界的規模でのグローバル化や,日本国内での在留外国人・外国人観光客の増加が進んでいることに加え,2018 年の「出⼊国管理及び難⺠認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」の成立に伴い外国人労働者の急増が見込まれています。外国人技能実習生に対する人権侵害がすでに社会問題となっていますが,今後外国人が安心して日本での生活を送れるような多文化共生社会の推進が極めて重要な社会課題となっています。また,グローバル化に伴う世界的な貧富の格差の増大や,ネオナチの拡大といったナショナリズムの広がり,日韓関係の冷え込みなどに鑑み,国際協調を推進することの重要性も高まっていると言えます。このようなことからも,国際的な理解や国際的な視点を持つための教育の充実・発展は重要な課題と言えます。
現在,私は,APASWE(Asian and Pacific Association for Social Work Education/アジア太平洋ソーシャルワーク教育連盟)の理事を務めていることもあり,本学会と APASWE をはじめとした国際的な組織との交流を活発化させ,国際的な理解や国際的な視点を持つための教育の充実・発展に貢献できればと考えています。そして,そのことが,社会変革を自分事として学生にとらえてもらうことにつながればと願っています。
目次
- 巻頭言「社会変革を自分事に」
- 第15回⼤会「創造的な学びの可能性〜実践と教育の継続的な循環」開催案内
- 第 15 回⼤会学会企画シンポジウム「ICT と社会福祉教育」開催に向けた会員向けアンケート調査「社会福祉教育における ICT 活用状況とあり方について」への回答のお願い
- 日本社会福祉教育学会第 9 回春季研究集会 実施報告
- 連載「授業をより良くするための Tips」②
- 理事会報告